近年、全国各地でヒグマなどの野生鳥獣が人の生活圏に出没する事例が増えており、自治体には迅速かつ安全な対応体制の構築が求められています。
その中で注目されているのが、ドローンを活用した捜索・状況調査です。
ただし、市街地周辺でのドローン飛行や緊急時の運用には、機体知識や操縦技術だけでなく、法務・運用体制も重要となります。
「機体は導入したものの、法令対応が難しく実際には飛ばせていない」
「ドローンを活用したいが、技術・予算・法的なハードルが高く踏み出せずにいる」
こうした声を抱える自治体の方も少なくないのではないでしょうか。
このような課題に先進的に取り組んでいるのが、「ヒグマ等鳥獣対策活動協力に関する協定」を締結した北海道浜頓別町様と株式会社高橋組様です。
当社は、この取り組みにあたり、「特例飛行の運用ガイドライン」と「協定書」の作成を担当いたしました。
本記事では、その具体的な内容と、実現までに必要となった法的・実務的な準備についてご紹介します。

行政書士 中島北斗
この記事では、事例の概要とあわせて、なぜ自治体によるドローン活用において特例飛行の運行ガイドラインや民間協定が重要なのかを解説します。
浜頓別町におけるヒグマ対策ドローン活用の概要
北海道浜頓別町様と株式会社高橋組様は、ドローンによるヒグマ等鳥獣対策活動協力に関する協定を締結しました。
この協定では、平時における個体数調査やモニタリングでのドローン活用に加え、ヒグマ等が市街地に出没した際には、個体の捜索や周辺状況の調査をドローンで実施すること等が盛り込まれています。
生活圏にヒグマが出没した際、地上からの目視による捜索は危険を伴い、十分な状況確認が困難になることもあります。
そのため、上空から安全に状況を把握できるドローンの活用は、初動対応の迅速化や関係機関との情報共有において大きな効果が期待されます。
今回の取り組みでは、赤外線サーマルカメラ、距離測定機能、防塵・防水性能などを備えたドローンを活用した鳥獣対策を行い、住民の安全確保につなげる運用が想定されています。
地域課題に対する新たな対応モデルとして、全道・全国的にも先進的な事例といえるでしょう。
▼高橋組様のヒグマ調査の事例
なぜヒグマ対策でドローン活用が有効なのか
目視による捜索は危険性が高い
ヒグマのような大型野生鳥獣への対応では、まず第一に人の安全確保が重要です。
茂みや建物の陰など、見通しの悪い場所に潜んでいる可能性がある状況で、地上から接近して確認することは大きな危険を伴います。
また、出没場所が市街地周辺や住宅地近接エリアである場合には、住民への注意喚起や関係者の立入管理も必要になり、現場対応はさらに複雑になります。
そのため、できるだけ人が危険な場所へ近づかずに、状況を把握できる手段が求められます。
ドローンを活用すれば、屋上や車内など、比較的安全な場所から状況確認を行える場合もあり、操縦者や対応者のリスク低減にもつながります。

上空からの状況把握で初動対応を支えられる
ドローンを活用すれば、上空から広範囲の状況を確認できるため、対象個体の位置把握、行動の確認、周辺環境の調査を効率的に行えます。
これにより、現場に出動する関係者が無理に対象に接近する必要を減らしながら、より安全に情報を収集しやすくなります。
また、緊急銃猟を実施する際にも、ドローンは有効な補助手段となります。対象個体の位置や発砲方向の周辺状況、第三者の状況を上空から確認することで、地上の目視だけでは把握しにくい死角を補えます。

さらに、ドローンで取得した映像や位置情報を関係機関と共有すれば、現場判断の精度向上にもつながります。
単に「飛ばして見る」のではなく、初動対応の判断材料を迅速かつ立体的に集める手段として、ドローンは有効に機能します。
サーマルカメラ等の活用で調査精度を高められる
ヒグマ対策では、夜間や視認性の低い環境下での対応が課題になることがあります。
赤外線サーマルカメラ等を搭載したドローンを活用することで、目視だけでは把握しにくい状況でも、対象の発見や位置確認の補助が期待できます。
さらに、地上からは茂みなどに遮られて目視確認が困難な場合であっても、赤外線サーマルカメラを用いることで、生体の熱を手がかりとして対象を把握しやすくなります。

根本的な鳥獣対策の立案・検証にも活用できる
ドローンの活用は、ヒグマが出没した際の緊急対応に限られません。
平時における根本的な対策の立案や、対策後の効果検証においても有効です。
効果的な鳥獣対策を講じるためには、まず地域の現状を把握する必要があります。
個体数や行動範囲、農作物への被害状況などを把握することで、捕獲・追い払い・誘引物の管理といった対策のうち、どれをどの場所で優先的に行うべきかを判断できるようになります。
広範囲を効率よく調査できるドローンは、こうした基礎データの収集において大きな力を発揮します。
さらに、対策を実施したあとの効果検証にも活用できます。
被害件数や個体の出没状況がどう変化したかをドローンで継続的に調査することで、対策の有効性を客観的に確認し、必要に応じて見直していくことが可能になります。
こうした「調査 → 対策 → 検証」のサイクルを支える手段として、ドローンは緊急時のみならず、中長期的な鳥獣対策のツールとしても機能します。
自治体がドローンでヒグマ対策を行う際に重要となる法的準備
ここまでドローン活用の有効性についてお伝えしてきましたが、実際に運用するために、機体知識や操縦技術と同じくらい重要となるのが法務・運用体制です。
ドローンの飛行は、ほとんどの場面において航空法をはじめとする各種規制の対象となり、許可・承認の申請手続きが必要となります。加えて、自治体と民間事業者が連携して運用する場合には、平時からの協力体制や制度設計が欠かせません。
ここからは、平時の許可承認の取得から、緊急時に活用できる特例飛行制度、そして自治体と事業者の連携を支える協定書の整備まで、ヒグマ対策にドローンを活用するうえで押さえておきたい法的ポイントを順に解説します。
平時に飛ばすために許可承認を取得する
緊急時にすぐ動ける体制を作るには、平時のうちに特定飛行の許可承認を取得し、日常的な巡視などで運用経験を積んでおくことが有効です。
具体的には、包括申請によってDID、夜間、目視外飛行、30m接近飛行などの特定飛行の許可承認を取得する方法や、レベル3.5申請によって補助者なし目視外飛行の運用を可能にする方法があります。
いずれも、取得には航空法等の知識と10時間以上の飛行経験、飛行形態に応じた追加訓練が必要です。加えて、レベル3.5の運用には技能証明(国家ライセンス)の保有も要件となります。
こうして通常飛行の枠組みを整えておくことは、後述する「捜索、救助等のための特例飛行」を運用するうえでも土台となります。通常時の許可承認プロセスで培った法令理解・運用体制・記録整備の経験が、緊急時の特例飛行にも活きてきます。
ヒグマ対策におけるレベル3.5運用の特殊性
レベル3.5を活用してヒグマ対策を行う場合、制度上の要件と現場の実態にギャップが生じる場面があります。自動操縦の要件をどう扱うかが、その代表例です。
レベル3.5では、原則として目視外飛行を行うという性質上、「自動操縦システムを装備し、機体に設置されたカメラ等により機体の外の様子を監視できること」というのが要件とされています。
ここでいう自動操縦とは、「プログラムにより自動的に操縦を行うこと」を指します。
そのため、実務上はレベル3.5飛行は、離陸地点・経由地点・帰還地点を結ぶような線的な経路を事前に設定し、その経路に沿って飛行させる運用が想定されています。

一方、鳥獣対策の現場では、以下の理由から「自動操縦×線的経路」では対応できない場合があります。
※定期的な巡視であれば、通常の申請方法でも対応可能なケースがあります。
そのため、あらかじめ設定した固定経路に沿って飛行させたのでは、対象を見失う、あるいは捜索そのものが成立しない、といった事態が生じます。
実際の運用では、操縦者がモニターで映像を確認しながら、対象の動きに応じて遠隔操作で機体を操作するケースも少なくありません。
このような運用形態は、目視外飛行における自動操縦要件の適合性を「否」と回答したうえで、代替的な安全対策を講じる必要があります。
また捜索エリアも、線的ではなく、面的な広がりをもつ経路となります。

面的経路の設計方法も含め、具体的にどのような代替策を整えれば申請が認められるかは、運用形態ごとに個別の検討が必要です。リーガライト行政書士法人では、「面的経路×手動遠隔操縦×レベル3.5」の取得実績がありますので、お気軽にお問合せください。

航空法第132条の92に基づく「捜索、救助等のための特例飛行」の準備
平時のドローンの運用では、前述のとおり、ほとんどの場面において許可承認申請が必要となります。
一方、航空法では、地方公共団体またはその依頼を受けた者が捜索・救助などを目的としてドローンを飛行させる場合、迅速な対応を可能にするため、一定の規制を適用しない「特例飛行」の制度が設けられています。
この「特例飛行」は、災害や事故時の捜索・救助のための制度というイメージが先行しがちですが、ヒグマをはじめとする鳥獣被害への対応も、要件を満たせば適用対象となり得ます。
以下、国交省HPに掲載されている特例飛行の適用事例です。

上記のようにヒグマに限らず鳥獣対策の現場において、自治体職員または委託先の民間事業者がドローンを運用する際には、この特例飛行が適用されるケースが想定されます。
ただし、特例飛行の適否の判断は自治体自身が行う必要があるため、「許可なしで本当に飛行させてよいのか」という判断に迷い、結果としてドローンを十分に活用できないケースも少なくありません。
誰が出動を判断するのか、どのような条件で飛行するのか、関係機関との連絡体制や住民への周知方法はどうするかといった点を整理しておくことで、緊急時においても迷わず、安全・適法・迅速に無人航空機を運用できる体制が整います。
特例飛行の運用ガイドラインの記載事項の例
「なぜ飛ばしたのか」を説明できる状態にしておく
特例飛行は、事前の許可申請を経ずに飛行できる制度であるぶん、飛行の適否を判断する責任は特例適用者が負うことになります。そのため、「なぜその場面で飛ばしたのか」を事後に説明できる状態にしておくことも重要です。
実務・ガバナンス上の観点から、住民や議会、報道などから飛行の必要性や妥当性を問われた際、その場の判断だけでは、運用の正当性を十分に示すことは困難です。
あらかじめ判断基準や運用手順をガイドラインとして文書化しておけば、「安全性を考慮して事前に定めた基準に従って運用した」ことを客観的に示すことができます。
運用ガイドラインは、現場の判断を支えるだけでなく、事後の説明責任を果たすための根拠としても機能するのです。
当社では、本事例における運用規程の作成も担当しており、こうした実務を踏まえた運用規程の整備にも対応しています。
協定書を整備しておく意義
制度が整っていても、自治体だけでドローン運用体制を維持するのは容易ではありません。
機体や専門機材の導入・維持にはコストがかかり、サーマルカメラを搭載したドローンの運用には、操縦技術に加えて、熱源映像から対象を正確に判別する読み取りの技量も求められます。
加えて、ヒグマの出没は夜間や休日にも起こり得るため、行政内部のリソースだけで即応体制を確保するのは現実的ではありません。
航空法第132条の92も、特例飛行の主体を「地方公共団体またはその依頼を受けた者」としており、民間事業者の関与を前提とした制度設計となっています。
地域に根ざした事業者と連携することで、機材・人員・機動力を補いながら、実効性のある体制を構築できます。
だからこそ、自治体と民間事業者のあいだで、平時から連携の枠組みを文書で整えておくことが重要になります。
協定書では、次のような事項を整理することが考えられます。
協定書の記載事項の例
これらを事前に明確にしておくことで、緊急時にも関係者が迷わず対応しやすくなります。
逆に、取り決めが曖昧なままだと、責任分担や判断権限が不明確になり、せっかく機材や人員がそろっていても実際の運用に支障が出る可能性があります。
当社では、本事例における協定書の作成も担当しており、こうした自治体と事業者の連携を前提とした文書整備にも対応しています。
リーガライト行政書士法人が担当した支援内容
今回の北海道浜頓別町様と株式会社高橋組様の取り組みにあたり、当社では、特例飛行の運用ガイドラインや協定書の整備を担当しました。
ドローン専門の行政書士法人だからこそ、法的視点に加え、現場で実際に運用できるかという視点で、各種文書を整理することができます。
ドローンの飛行に関する法務セミナー
自治体職員・警察・消防などの関係機関や、地域の皆様を対象に、ドローン法務に関するセミナーを実施させていただきました。
セミナーでは、ドローンの活用事例や運用上の注意点などを共有し、関係機関の皆様には各種文書を整備する際の協議ポイントをご理解いただくとともに、地域の皆様にも、ドローン活用の意義や安全面への配慮について理解を深めていただく機会となりました。
関係機関の連携と地域の理解の両面から、今後の議論を進める土台づくりを目指しました。
特例飛行の運用ガイドラインの整備支援
当社は特例飛行の運用ガイドラインの整備において、ヒグマ等鳥獣対策という業務の特性を踏まえ、安全管理体制や判断基準、運用フローを整理しました。
緊急対応が求められる場面では、現場判断のスピードと安全確保を両立させる必要があります。
当社では、制度面だけに偏るのではなく、現場で実際に運用できるかという視点も踏まえながら、ガイドラインの整備を支援しています。
法的に整っているだけでなく、実際の現場で機能する内容になっているかどうかが、こうしたガイドラインでは非常に重要です。
協定書の作成支援
協定書の作成にあたっても、単に形式的な文書を整えるのではなく、実際の運用を見据えながら内容を設計することが重要です。
自治体と民間事業者が連携する案件では、文書上の整理が不足していると、運用開始後に「誰が何を判断するのか」「どこまでが対応範囲なのか」が曖昧になることがあります。
当社では、自治体と事業者の連携体制を前提に、出動要請の考え方、活動内容、役割分担、連絡体制、責任の範囲、秘密保持に関する事項などを整理し、実務で使える形の協定書作成を支援しました。
制度と現場運用の両立を意識した設計
ドローンに関する文書整備では、単に法令やガイドラインをなぞるだけでは不十分です。
現場で本当に使える運用体制をつくるためには、事業の目的、現場の危険性、自治体との連携方法、判断フローなどを踏まえて制度設計を行う必要があります。
今回の支援でも、当社は文書作成そのものにとどまらず、自治体と事業者が現実に運用しやすい形に整理することを重視して対応しました。
こうした支援は、単なる申請代行や書類作成とは異なる、ドローン専門の行政書士法人だからこそできる実務に踏み込んだ法務支援と考えています。
まとめ:「機体・操縦技術」と「法務・運用体制」の両輪が重要
ドローンを活用した鳥獣対策では、機体知識や操縦技術だけでは十分ではありません。
ヒグマ対策のような緊急性の高い場面では、判断基準や責任分担の曖昧さ、関係者間の連絡不足が、事故や混乱の引き金になりかねません。
だからこそ、平時の段階で協定書や運用規程を整備し、自治体・事業者・関係者が共通認識を持てる状態にしておくことが欠かせません。
また、法制度の理解や責任の所在が曖昧なままでは、「本当に飛ばしてよいのか」と判断に迷い、いざという場面でドローンを活用できないという事態にもつながります。
過度に慎重になるあまり、せっかくの制度や機体を活かせなければ、住民の安全確保という本来の目的も果たせません。
単に「飛ばせる」状態を目指すのではなく、機体・操縦技術と法務・運用体制の両面を揃えてはじめて、「いざという時に、迷わず、安全に飛ばせる体制」として機能するのです。
自治体・事業者によるドローン活用をお考えの方へ
リーガライト行政書士法人では、今回のようなヒグマ等鳥獣対策をはじめ、自治体や事業者が連携して行うドローン活用について、法務面・制度面から以下のような支援を行っています。
鳥獣対策、災害対応、点検、調査など、公的性の高いドローン活用では、事前の制度整備が運用の成否を左右します。
ドローンを上手く活用しきれていないとお困りの方は、ぜひリーガライト行政書士法人にご相談ください。
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執筆者:
行政書士 中島北斗
ドローンの規制(改正航空法)が始まった2015年当初からドローン申請業務を行っている行政書士が、ドローン法令の遷移を生で感じていたからこそわかる、リアルで正確性な情報を発信いたします。
ドローン許可取得実績は15,000件、相談実績は20,000件、また100校を超えるドローンスクールの顧問をしています。
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